那覇マチグヮー探訪



那覇の街に来たのは3度目です。
今回は研究会のエクスカーションということで、地元のガイドさんの案内で街を巡ることになりました。
個人的には自由気ままなフィールドワークが好きなので、だいたい一人で散策することが多いのですが。
ただ、その土地のコンテクストを知る人が一緒にいると、一人では見えないものが見えてくるものもあります。

散策するのは那覇の「マチグヮー」。
沖縄の方言で「市場」「商店街」という意味です。
主に牧志公設市場とその周辺商業地区を巡りました。
最初はなんだか学校の社会科見学みたいだなぁと思っていましたが、気がつくとガイドさんの話に聞き入っていました。

昔は何もなかった


那覇の街の中心といえば国際通り。観光客は必ずと言っていいほど訪れる繁華街です。
国際通りの名称は、戦後につくられた「アーニパイル国際劇場」に由来するそうです。

この国際通りを中心とした市街地は戦後にできたもので、戦前は何もない低湿地でした。
ガイドさんに写真を見せてもらいましたが、ほんとに何もない平原です。
戦前の市街地は今よりもっと海側にあったのですが、戦後はその旧市街地が米軍の軍事拠点になりました。
那覇の人たちは、何もなかったこの低湿地に闇市が開き、戦後の復興を開始することになったわけです。
次第に闇市は拡大し、商業地区が形成されいくわけですが、その無秩序な拡大を公的に管理するため、1950年に牧志公設市場が作られます。
公設市場を中心とした国際通りの南側の商店区域は、闇市とその後の発展期の面影が今でも色濃く残っています。

川の上の商店街


むつみ橋の交差点で、国際通りから南に入ったむつみ橋通り。雰囲気が少し変わります。
細い路地に狭い商店が軒を連ねる商店街が続き、奥に行くほど狭くなっていきます。




この通りは曲線を描いて伸びるアーケード街。
実はこの通り沿いの店舗の下には川が流れています。
かつて、ここに流れる「ガーブ川」沿いに闇市が並んでいましたが、商業面積を広げるため川の上にもお店を作りました。
今でもこの並びは水上店舗と言われています。
ガイドさんに教えてもらわないとわからなかったですね。

ガーブ川の上の水上店舗は、むつみ橋交差点から南に500メートル以上に渡って続きます。
川の上を横断するときは、道が橋のように盛り上がっているので、気をつけて見ていればわかると思います。

牧志公設市場


むつみ橋通りを南下していくと、観光地としても有名な公設市場周辺地区に辿りつきます。
正式名称は「第一牧志公設市場」。現在の建物は1970年代に建て替えられたものだそうですが、とにかく外観と内装が古い。



ガイドさんによれば、昔からの那覇の人たちはここで買いものをするそうですが本当でしょうか。
僕の印象では観光スポット化されて、地元の人が来るという印象は全然ないのですが・・・。

これは後々調べたのですが、「那覇市民意識調査(平成 26 年)」 のアンケート結果によると、那覇市民がマチグヮーで買い物する頻度としては「年1~2回」が 40.2%と最も多く、「年1~ 2回」と「全くいかない」の合計は 65.5%となっているようです。

市民は全然来ないようですね。
きっと市民の台所はイオンです。

公設市場の一階は鮮魚店や精肉店、二階は飲食コーナーです。
一緒にガイドツアーに参加した人の中には、ここの雰囲気(特に匂い)がダメだという人も結構いました。
とにかく昭和的・アジア的な空間なんですね。
暗くて空気も悪いし生鮮食品を売っているのに屋内喫煙可。
ダメな人は徹底的にダメだと思います。
でも、こういうのこそが那覇の魅力だ!という人もいると思います。
僕はどちらかと言えばこういう雰囲気は好きです。


マチグヮーの迷宮


公設市場周辺は、1970年代の古い街区が残るいい意味で小汚い路地裏。
誤解を恐れず言えば、アジアの路地裏的な雰囲気を醸し出すノスタルジックな空間。
沖縄そば屋や立ち飲み屋、大衆食堂が軒を連ねています。



『スワロウテイル』という僕の好きな映画があるのですが、そのワンシーンを彷彿とさせました。
那覇の人は「もっといいトコあるよ〜」というかもしれませんが、僕はこういう那覇の風景が好きです。
基本、廃墟フリークなので(笑)

ガイドさんは、マチグヮーは迷宮だと言いいます。
実際、アーケードの街路は曲線を描きながら縦横斜めに入り乱れていて、気をぬくとどこだかわからなくなります。


闇市から自生的に発展してきたこの街の歴史が生み出した迷宮と言えるでしょう。

再開発に向かう


今回散策した那覇のマチグヮー。
公設市場を中心とする街区は、基本的に1970年代のまま。
建造物としてもだいぶガタも来ていそうですし、耐震も心配です。

公設市場をめぐっては、再開発の計画が本格的に進み、2019年には仮設市場への移動、2022年には新装開店の予定だそうです。
あのアナーキーな雰囲気が好きな僕としてはちょっと寂しいですが、まあ仕方ないと思います。
今のままでは若者や子育て世帯は非常に来づらいですからね。
ぜひ安全・安心かつバリアフリーでユニバーサルな空間へと変貌を遂げてもらえればと思います。

市場の周辺街区も、それに併せて再開発していけばいいんじゃないかなと思います。
再開発といっても巨大施設を作るという意味ではなく、迷宮性はそのままに、むしろその迷宮性を生かして魅力的な街づくりができるのではないでしょうか。
戦後闇市の面影と1970年代の雰囲気を資源にして、観光客だけでなく地元市民を呼び戻すような再開発が行われる余地は、十分にあるように思われます。

那覇の街をガイドさんの案内で回った今回のエクスカーション。
個人的にはすごく楽しかったです。
ガイドさんのブラタモリ的な演出も素敵でした。
今回は帰宅日だったので慌ただしくなってしまいましたが、今度来るときはゆっくり周辺を散策したり、お店に入って美味しいもの食べたいと思います。