ポートランド備忘録:もうひとつの「開発」

今月、アメリカは西海岸のオレゴン州ポートランドに行ってきました。

実は初のアメリカ大陸です。

ポートランドは、ライフスタイル、街づくり、働き方、市民参加という僕の探究関心のいずれにとっても先端的なフィールドで、以前から常々行ってみたいと思っていました。

アメリカとイギリスのフェアトレードの比較研究もやらねばならないところ、ちょうどいいタイミングで立教の研究会の方からポートランド調査への参加の話が出たので行ってきました。


ウィラメット川から臨むポートランド市街 


ポートランドを代表する本屋パウエル 



自転車屋も多いのが特徴 


MAXライトレール(https://www.travelportland.com/) 


シェアできる自転車 


ポートランドは人口約60万の中都市。1990年代後半から都市再生事業が始まり、中心部北部のパール地区を中心に再開発が行なわれました。
日本で再開発といえば、古ぼけた個人商店を地上げで追い出して道路を拡張したり○○ヒルズと銘打った大型複合商業施設をドンと作ったり、みたいなことを想像してしまいます。

けれど、ポートランドがやったのはその逆。ダウンタウンには路面電車の線路と自転車専用レーンを引いて自動車を制限し、小規模店舗を軸としたコンパクトな商業地区を作り出しました。

そのコンセプトが「サステナブル」。これまでのように自動車に頼るのではなく、環境に 優しい電車や自転車を軸とした交通網の整備。昔からの建物も壊してしまうのではなくリノベして再生利用。また、商店もチェーンではなくローカルの個人商店 を中心に据えることで、都市内部での循環型経済を形成することに成功します。

こうした「開発」によって、一地方都市にすぎなかったポートランドは2000年代に大きく知名度を高め、今では全米で住みたい都市第1位にまで成り上がりました。
もちろん、ポートランドの魅力は街づくりだけではなく、その背景にあるカルチャーです。
サードウェーブ・コーヒー、DIY(Do it yourself)、フードカー、ファーマーズマーケット、クラフトビール。
近頃耳にすることの多くなったこれらのものも、ポートランドの代表的なカルチャーです。


ポートランドの再開発は、これらのカルチャーと切り離せません。

たとえば、パール地区ではクラフトビールの醸造所をリノベーションした店舗やオフィスが立ち並びます。レンガ造りの建物の再利用は、アメリカ版の古民家オフィスとも言えるでしょう。

パール地区のリノベーション 


ポートランドは起業家の街でもあり、市街地のいたるところに古い建物をリノベしたコワーキングスペースがあります。


また、サードウェーブのカフェは再開発地区には欠かすことのできないクリエイティビティの源です。僕も市内の6件のカフェに行きましたが、さすが本場。雰囲気もコーヒーの味(特にアイス!)も良かったです。


Courier Coffeeが一番気に入りました (http://trueportland.tumblr.com/) 

都市のポテンシャルがビルや道路といったハードにではなく、クリエイティブなカルチャーや起業家精神というソフトによって与えられているのがこの街の特徴だと言えるかもしれません。

金沢に限らず日本の地方都市の「都会」化は常に東京化でしかなく、それはそれで文化的に仕方ないのかもしれないし、けっしてそれは悪いことではないのかもしれないけれど・・・もっと他の可能性もあるのにもったいないなぁと個人的には思います。

そして、市内で週末に開催されるファーマーズマーケットは都市に住まう人たちの活力の場です(カフェとファーマーズマーケットに関しては、次回の記事で詳細に書きたいと思います)。

日本では長らく、いかに高いビルをつくるか、いかに有名な店舗を誘致するかが「開発」という言葉の含意にあったと思います。

振り返ってみると、僕も地方都市を観察するときなんか、市街地の大きさや高層ビルの数、東京の有名店舗の有無をその都市の「発展」度を測る指標としているような気がします。

でも、ポートランドを散策していると、その意味での「開発」や「発展」は非常に狭いものでしかなく、別のベクトルを持つ開発・発展のあり方もありうるのだと教えられます。

もちろん、都市はそれぞれサイズやスタイルが異なるので、一概にポートランド的な開発が最適だというわけではないかもしれません。ただ、日本の地方都市を見ていると、複合商業施設を作ることが開発だと、あまりにも一面的に考えられすぎているように思われます。

余談ですが、訪米前にいた金沢では、街の中心部に「片町きらら」という複合商業施設が新たに作られていました。LOFTが入っているのが自慢だそうです。

東京にもありそうなオシャレな建物ですが、金沢の目指す「都会」は昔から上記のごく狭い意味での開発・発展のコンセプトに支えられたものでしかないのだなぁ、とつくづく感じます。近江町市場の再開発の頃から変わっていません。

この辺は、また別途ゆっくりブログで書きたいと思います。

ポートランドの街づくりに関しては以下参照

山崎満広, 2016,『ポートランド――世界で一番住みたい街をつくる』学芸出版社.

次回は、ポートランドの「食」について書きたいと思います。